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2024.09.18

2023年5月 社有林だより

社有林だより

※2023年5月、当社社員向けに発信されました社有林だよりを掲載致します。

皆さん、こんにちは。

風薫る季節も終わりが近づきつつありますが、爽やかな風が吹き抜ける山々は針葉樹の深い緑と鮮やかなコントラストを成している広葉樹の新緑が日に日に濃くなっています。今が一年でいちばん新緑が輝く時期で、やがて夏に向けて山全体が濃い緑に包まれる景色となることでしょう。

社有林では、そうしたキラキラした新緑の下で、森への愛情と森づくりへの情熱を持つ約60名の社員が、夫々の持ち場で、将来に向けての持続可能な森づくりに日々取り組んでいます。長期の森林経営計画に基づき、社有林の約4割を占める人工林では、皆伐→植栽→下草刈りなど手入れ→10〜20年毎の間伐や枝打ち→そして皆伐、の約60年のサイクルを回して行きます。また約6割の天然林でも健全な森となるように間伐を始め必要な施業(せぎょう=森づくりの為の作業管理)を実行します。社有林は全国に75ヶ所/4.5万ヘクタール(東京23区の7割の広さに相当)ありますので、森林経営計画も相当数あります。その内、北海道28ヶ所/3.5万haの社有林は北海道事業部及び2つの山林事務所(札幌/平取/帯広)でカバーし、東北から九州までの本州47ヶ所/1万haの社有林は名古屋に本拠を構える本州事業部及び傘下の三重・長島山林事務所が中心になって、必要に応じて地元の森林組合や外部業者とも密に連繋しながら必要施業を実行しています。

三井物産フォレストでは、新年度の組織改組で、それまで本社(東京)に置いていた本州事業部(北海道以外の社有林を管掌)を新たに設置した名古屋事務所に移して本州のほぼ中間に位置することで北は東北から南は九州まで管轄社有林内での移動利便性を高め、同時に、当社の重要山林で、従来、三重・長島山林事務所で管轄していた三戸山林(さんどさんりん)と新年度より三井農林から引き継いだ岐阜・水沢上(みぞれ)山林を名古屋傘下として至近から経営出来る体制とすることで、社内外関係者との連繋をより緊密にしました。一方、人事異動により、4事務所(札幌/平取/帯広/名古屋)の所長が総入れ替えとなりました。新体制定着まで一定時間が掛かるでしょうが、従来とは異なる新たな目線と発想でより高いレベルの森づくりに取り組めるチャンスでもあり、新所長の皆さんと共に、本年4月からの新中経のテーマに掲げる「持続可能な森づくりと新たな価値創造への挑戦」のより高いレベルでの実現を目指してあらゆる可能性を追求して行きます。

持続可能な森づくりでの、一つの切り口は、森林で伐採した木材の輸送をどうするかです。林業での輸送方法は主に2つあります。一つは道路を使って、切り出した木材をフォワーダーと呼ばれる専用の輸送車で中間置場である土場(どば)まで運ぶやり方です。これは便利ですが、十年単位の伐採の為だけに確りした道が森林のどこにでもある訳では無く、お金を使って作業道を拡張したり新たに道を造る必要があります。もう一つは、タワーヤーダー等を使った架線集材と呼ばれる方法で、道の建設が難しい急峻な尾根や深い谷で伐採した木を、専用の重機に設置した塔を支柱としてワイヤーとウィンチを使って引き上げる或いは引き下げるやり方です。いずれの場合も切り出した木材がコストに見合うことが大事です。コストが見合わないと判断される場合には、伐らない木の大径木化(たいけいぼくか=間伐によって木と木の隙間を拡げることで成長を促し幹を太くする)を狙って間伐し伐った木はその場に残しておくか(切捨て間伐)、それとも何もしないで放っておくか、のいずれかとなります。輸送に限らず、過去にコストに見合わないと判断されたことで付加価値の創出が先送りされ、結果として持続可能な状況になっていない森林で何らかの工夫によって打破できないかを考えアクションを取っていくことが課題です。また、新たな価値創造では、天然広葉樹の活用や気候変動対応としてのCO2クレジットの創出に加えて、生物多様性や水源涵養、或いは防災といった森林が本来持つ自然資本の深掘りとその活用に向けてアクションをとって行きます。

社有林での課題は日本林業の縮図です。即ち、第二次世界大戦後の復興での建設や燃料の需要増大に対応する為に、荒廃した国内森林の広葉樹が頻りに伐採された跡地に、成長が早く手間のかからない、かつ真っ直ぐに伸びることで使いやすいスギが、そしてやがてヒノキが国策として植林されました。ところがその後の高度成長期の更に急激な木材需要の伸びに対応する為に自由化された競争力のある輸入木材の流入が止まらなくなり、やがて国産木材の供給は細り、日本林業は衰退して行きました。日本の木材自給率は2002年の19%を底にして最近は40%程度に回復してきてはいますが、適齢期の木を伐採し販売してもコストをカバーできない、利益が得られないので間伐等手入れもできない、結果として、林業従事者が他産業に離れていき、やがて森林が放置される、といったことが企業や個人所有の森林のあちこちで今現在も起っている実態があります。コロナ禍での米国住宅需要増加に伴う木材マーケット高騰、所謂ウッドショックや森林大国であるロシアのウクライナ侵攻での木材供給タイト化によって国内林業への注目が高まりましたが、マーケットが正常化するに伴って、あっという間に危機感が薄れ元に戻っている感があります。三井物産フォレストは、こうした日本林業の一翼を担うとの自覚を新たにしながら、持続可能な森づくり、延いては持続可能な産業となるように弛まず挑戦して参ります。

ところで、天然林と人工林のお話をしていますが、当たり前のことながら日本に限らず元は全て天然林でありました。戦後、上述の通り、成長が早い、加工しやすいといった理由から本州ではスギ・ヒノキ、北海道ではカラマツ・トドマツが人工林として育成されてきた経緯があります。一方、伐採してもコストをカバーできない、林業人口減少によりタイムリーな施業もままならない、といった状況下、伐採後に人の手で植栽(苗植え)をせずに自然の発芽と成長に任せ、成長過程で最低限の手入れのみを想定する「天然更新(てんねんこうしん)施業」を目指す森林が出てきています。社有林でもそうした考えを適用する森はいくつかあり、自然に任せることで、思い通りにならない面はありますが、木々は本来の生命力を発揮して逞しく育ちます。自然の力という点では、植栽によって人工林を維持する場合にも、皆伐(かいばつ=一定範囲の森林を全て伐採)時に林内の優良広葉樹を極力残したり自然に混交した天然更新木は努めて活用するようにしています。これは、広葉樹を混ぜることで、植栽した針葉樹の生育も良くなるとの研究データに基づくものです。マツクイムシなどの病虫害も複数の樹種が生育する混交林では耐性が強いと言われています。多様性のある組織の方がそうでない場合より強いということでは人間社会と同じですね。

三井物産フォレスト
神野泰典

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