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2024.08.21

2024年7月 社有林だより

社有林だより

皆さん、こんにちは。
本州では、いつもより遅い梅雨入りがあっという間に明けて猛暑の毎日が続きますが、お元気でお過ごしのことを願います。
全国の社有林では引き続き持続可能な森づくりに向けて日々対応していますが、現場の安全と社員の健康のための暑さ対策は万全を期しています。北海道も含めて熱射病防止対応として熱中症警戒アラートを参考にし、同アラートが出ている場合は、野外作業は一切中止して空調の効いた屋内での作業に切り替えます。やむを得ず野外作業が必要な場合は空調服の着用を必須としています。

社有林(4.5万ヘクタール=東京23区の約7割)の約80%を占める北海道が年々暑くなっていることは実感しますが、それでも東京から出張するとやはり涼しく感じます。一方、同じく涼しいイメージのある東北地方の気候変化は気になります。同地方の社有林には、青森の大鰐(おおわに、154ha)、秋田の大庫沢(おおくらさわ、39ha)、馬場目(ばばめ、100ha)、秋田(49ha)、山形には金目(かなめ、699ha)、の各山林があります。各地共に例に漏れず温暖化は確実に進んでいるようで、昨年8月下旬の青森・秋田訪問時には38℃を超えて猛暑の東京よりも高い気温でした。現地の人からの話では、そもそも10年ほど前までは30℃を超えることが珍しかったところ、最近は35℃を超えて更に気温が上昇して慣れない猛暑に参っているとのことでした。青森では暑さでりんご栽培がダメージを受け、秋田では昨年男鹿半島近くの五城目での豪雨被害があり、本稿作成中(7/26)も線状降水帯発生による秋田・山形で豪雨被害が出ており、気候変動の影響が東北でも顕著です。社有林でも森林内道路の一部損壊がありましたが、被害最小化と地元皆さまの無事を切に願います。

上述の東北社有林について、青森・大鰐山林はスギを中心とする人工林80%でほぼ全山が「土砂流出防備保安林」に指定されており土砂崩れ等自然災害防止に寄与しています。また起伏が大きく急峻な場所も多い中で適切な間伐を繰り返し、より健全で公益性の高い森となるよう保育をしています。秋田の3つの森林はいずれもスギを中心とする人工林がほぼ100%を占め、継続的に間伐による丸太の生産や、それを可能にするための作業道敷設・修理等、を行っています。ところで「秋田スギ」は有名ですが、その要件は樹齢150年以上の天然スギです。長い年月をかけて年輪が密で直径1m以上にも及ぶ太い樹木にもなります。社有林で伐採されるスギは適度な間伐を含めて確りと手入れされていることから良質ですが、樹齢50~60年の人工林で年輪幅は広く、残念ながら要件を満たしません。

一方、山形・小国町にある金目山林は、ほぼ100%が天然林で車が入れる道も無くブナを始めとする広葉樹が広がる貴重な森林です。生物多様性については更に調査が必要ですが、地元管理人の話では、ツキノワグマ、サル、イノシシの痕跡が見られる他、ワシ・タカ類の個体数が減少しつつある鳥類たちの存在も確認されているとのことです。更に、ニホンアナグマ、ヤマネコ、モモンガの生息も確認されており多様性は豊かです。明治時代初頭に日本各地を巡り、「日本奥地紀行」を1880年(明治13年)に刊行した英国人女性探検家イザベラ・バート・ビショップは、金目山林付近も訪問した記録が残っており、同地を「エデンの園」とし、その風景を東洋のアルカディア(理想郷)と記しています。

金目山林から新潟の県境はすぐ近くで、新潟側には、北から、越沢(こえさわ、53ha)、八ツ口(やつぐち、225ha)金丸(かなまる、405ha)、女堂(おんなどう、5ha)の4山林があり、スギの人工林が多くを占めます。先ほどのイザベラ・バードは金丸山林の大里峠を歩いています(ついでながら、社有林のある北海道・平取(びらとり)も訪問し同地及びアイヌの人々の様子についても細かく記しています)。そして少し離れた同県南には妙高山の前座の青田難波山(949m)を含む南葉山林(なんば、244ha)に続きます。同山林は、南葉高原キャンプ場より青田難波山に向けて社有林内を通る二つの登山道(木落しコース/明神峠コース)が開設されており、上越市と使用貸借契約を締結し、福島・田代山と同様に一般登山客が入山できる数少ない社有林の一つとなっています。斯様に東北から新潟に至る社有林は人工林、天然林共に変化と多様性に富んでおり、更なる価値拡大と新たな可能性の発掘に向けて取り組んでいます。

神野泰典
三井物産フォレスト

2024年7月

 
 
 
 

写真
上左から…大鰐山林、馬場目山林
真ん中左から…大庫沢山林、金目山林(全景)
下…南葉山林(ブナ)

 
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